人生の旅路はいろいろ
スプリング・エフェメラル「キクザキイチゲ」の可憐な紫の花が咲いた。
春を謳歌し、はかなく去る「キクザキイチゲ」に人生の儚さを重ね合わせた。
中学のクラスメートだったS子さんとは、今に至るまで細く長いお付き合いだ。
S子さんご夫妻は、美男美女のカップルのうえ相思相愛の仲だった。
ところが60代で運悪くご主人を亡くされ、その後彼女は60代後半で脳出血で倒れ、ある時期の記憶は途絶え、今は施設に入居しておられる。
高度成長期に会社を興され順調満帆なようにみえた。
二人の間に、お子さんは授からなかった。
私のことは親しい人と、携帯番号がメモしてあるらしく、たまに連絡をいただく。
わたしは彼岸のお墓参りを終わらせると、外出したいという彼女の希望をかなえてあげたいなぁと、施設を訪ねた。
S子さんは、素敵にお洒落をして、施設の玄関先で立って待っていてくれた。
あなたは「車でどこでも、お出かけできて、いいわねぇ」と、、。
わたしも70歳になり間もなく肺腺がんを患った身だが、いまは元気に車を運転し、どこでも自由に出かけられる。
現在おかれている彼女の身の上を考えると、改めて有難いことだとつくづく思った。
外出がほとんどできないS子さんは、ファッションのお店に行きたいようだった。
ランチを楽しみ、美味しい珈琲を楽しみお買い物もでき、4時間余りの外出は本当に楽しそうだった。
今までの中で一番明るい表情をみせ、満足して彼女は施設に戻っていった。
彼女はどこへ行きたいのか、何を求めているのか意思疎通がままならない時がある、精一杯絞り出す言葉に耳を傾けることだと私は気づいた、そしてつぎの機会に繋げたいと思った。